第二章 スマホで景色を撮り始めたこと

第二章 スマホで景色を撮り始めたこと

部屋の向こう側にある時間を見ていた、

その視線は、いつしかごく自然にスマホのカメラへと向かうようになっていった。とはいえ、その頃の自分に写真を始めたという自覚はまだなかった。

本格的な撮影でもなければ、作品を作ろうという意識もない。理論も技術もなく、ただ惹かれたものに向けてシャッターを切っていただけである。

朝通勤する時、仕事の合間、移動の途中、案内を終えたあとのわずかな時間に、街の光や影、窓の外に広がる景色に足を止めていた。ビルの隙間から落ちる西日、曇った空の下で鈍く光る外壁、窓ガラスに映る反射、夕方の高層住宅の向こうに滲む色。

そうしたものが、なぜか自分の中に引っかかった。何が撮れるのか分からないまま、それでも今日はどんな景色に出会えるのだろうという期待が毎日あった。その感覚は小さいが、たしかな喜びであった。ただ本能で撮るだけで楽しかったのである。

うまく撮れているかどうかは分からない。ただ、画面の中に切り取られた光や影を見るたびに、街は単なる背景ではなく、こちらに何かを返してくる存在になっていった。そしてその頃、始まったばかりのInstagramにも、次第に深くのめり込んでいった。

映えそうな景色を選び、撮った写真を投稿すると少しずつ反応が返ってくる。いいねが増えてフォロワーが思いがけない速さで増えていく。その感覚は新鮮で、どこか熱に浮かされたようでもあった。

自分の見ていた街の断片が他人の目にも届いている。そのことがうれしくて、また撮り、また投稿した。投稿を重ねるごとに、ほんの僅かではあるが、自分にも何か別の可能性があるのではないかという感触が芽生え始めていた。

だが、その時点で自分はまだ本気ではなかった。写真で生きようと思っていたわけではない。ただ、街の表情を拾い、それを外へ差し出すことが楽しかったのである。

いま振り返れば、あの頃の熱中は幼く、危うく、しかし確かに何かの始まりであった。写真を始めたというより、街を見る視線と、その視線を誰かに届けたいという衝動が、そこでようやく形を持ち始めていたのである。

Chapter 2

The Days I Began Shooting With a SmartphoneIt was around that time that I began taking photographs with my smartphone.

I was not trying to make art. I had no technical knowledge, no method, no concept.

I simply pointed the camera toward whatever pulled at my instincts.

And still, each day felt exciting.

I would wonder what might appear if I looked carefully enough, or if I happened to be standing in the right place at the right moment.

That uncertainty was a form of joy.

I was not yet thinking in terms of “photography.” I was simply responding to the world, and enjoying the act itself.

That instinctive pleasure mattered.

Long before intention, style, or books, there was only the thrill of seeing and capturing.

That was where everything began.

 

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